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彼女が、今日も屋上にいる理由可不、裏命
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朝方前、赤らんだ空を一瞥して眼下を眺める
許せないことばかりが今日も街を覆ってしまいそうだね
「ああ、死ぬにはもってこいだな」君は昨日と変わらず呟く
僕は宿題と称した遺書の拙い文面に目を通した

君はしょっちゅう下を見下ろした 僕はいっつも空を眺めてた
露骨に正反対なくせにきっとどっか似てると思ってた
「現国は苦手なんだよね」溜息ついて君は呟いた
たぶん全然関係ないよと言いかけて今日も口を噤んだ

『夕焼け空が綺麗すぎたから』『帰り道犬に吠えられたから』
『SNSのアイコンがバグって全部真っ黒になっちゃたから』
些細なことが積み重なれば……割と単純な話だけど
君は死にたいと繰り返すのに、そんな笑顔は気に入らない

「どうにでもなっちゃえばいいのに。思い通りにならない世界なら。
私とついでに君以外が全部なくちゃっても構わない
でも結局さ私たちがいなくなる方が楽だもんな。
なんだか癪だけど。
もういいかい? もういいかい?」

現実と理想はそりゃ互いに相反して存在するから
夢見がちなままで生きるにはそれなりの覚悟がいるってことさ
つまらない日常には退屈だなって叫んでみなきゃね
なあ、簡単だろ?
まあだだよ、まあだだよ


信念という言葉でわざと自分を縛り付けることで
僕らは多種多様な選択肢から敢えて遠ざかってる
傍目に映る自分は完全で究極なプロタゴニスト
「そんな勘違いでもしてないと、正直やってられないんだよね」

重度な中二病患者とか、精神的な倒錯者だとか
刃渡15センチに意味を込めた自称神の代弁者とか
狂った社会に挟まってしまい裏返った人間の末路
リバァシでもあるまいし、でも僕らの終着もきっとそこだ

『傘を差したくなかったから』『地下鉄が混んでいたから』
『嫌いな曲が連続で、サブスクのくせに流れてきたから』
そんなことは建前でしかなく、考えるのも馬鹿らしいよな
理由はない
理由はない
理由がなくても否定しないでよ

他人を傷付けるのが怖い、でも自分なら躊躇いはないな
不明瞭な感情はそれでも世界にはずっと有り触れていて
都合のいい言葉ばかり、検索欄に溜め込んでたから
いつからか知らないことが増えたなあ

僕なんか指紋認証がここ数日ばかり機能してないよ
有象無象の芥溜からさえも、爪弾きにされた気分だよ
電源長押ししたくらいで、終わりに出来るなら楽だよね
間違って押さないように、気を付けなきゃ

「どうにでもなっちゃえばいいのに。思い通りにならない世界なら。
私とついでに君以外が全部なくちゃっても構わない。
でもなんか暑いから、帰り道にアイスでも食べようか
どうせ赤点でしょ?」
そうかな? ……そうだね

『そして2人は手を繋いだまま、
笑いながら宙を掴んだ』
青褪めた真昼の空

「帰ろっか」

彼女が、今日も屋上にいる理由

僕が死にたい理由と、
君が生きている理由と、
僕が生きようと思った理由と、
君が死のうと思った理由

 © 2023 雨森文庫

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